蜜味センチメンタル

思い出した那色の女癖への不安。自分の知らない女の影。思い当たることが多すぎて、鎌田が達人に見えてくる。

動揺した羅華の表情を鎌田は見逃さなかった。まるで、「ほら、やっぱり図星だ」とでも言いたげに、ニヤリと笑う。

「原岸さん。そうやって悩んでる時間が楽しいんですよ、恋って。だからこそ、ちゃんと動かないともったいないんです」

くるりと椅子を回し、鎌田は資料の束を小脇に抱えながら立ち上がる。

「じゃ、午後の打ち合わせ行ってきまーす」と、軽やかに手を振ると、何の未練もなさそうに席を離れていった。

残された羅華は、空気の抜けたように背もたれに体を預け、小さく息をついた。


そうしながらも、羅華の胸の内には小さく灯るものがあった。

誘う。…そのたった一言が、こんなにも重たく感じるのはなぜだろう。けれど、それを怖がっている限り、この悩みは消えないし先にも進めない。


ふと視線を戻した画面には、Stratosの微笑みが映っていた。

完璧に作られた恋の幻想。けれど自分の中に芽生えたものはそれよりずっと不安定で、不器用で、だからこそ大事にしたいものだった。


指先がマウスを動かし、スケジュール画面を開く。

誘うなんて、まだ先の話だ。…そう思いながらも、どこかで“その日”を探している自分がいた。



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