蜜味センチメンタル
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冬が一段と強まったせいで、冷えた空気が街の隅々に張りついて離れなかった。
夜中羅華は自宅に戻るでもなく、会社に居残るわけでもなく、ただ駅のベンチに腰掛けていた。手にはホットコーヒー。ぬるくなった缶を包む指先に、じんわりとした温もりが残る。
“誘う”という一言。その覚悟を持つことが、こんなにも難しいなんて。
数日前の鎌田の言葉が、今も胸の奥で燻っている。
動いて、何かが変わってしまったら。今の曖昧な関係さえ壊れてしまったら…怖い。けれど。
——このままじゃ、何も変わらない
羅華は自分に言い聞かせるように立ち上がった。
歩きながら思い出す。女性客と親しげに話す那色の姿。家に来たあの夜、電話越しに交わされていた「ラン」という名前。自分の知らないところで、彼にはいくつもの“顔”があるのかもしれない。
でも、知りたい。目を逸らすばかりじゃ、何も進めない。
駅から数分歩き、見慣れたバーの看板が視界に入る。ガラス越しに覗けば、いつものように店は穏やかな空気に包まれていた。
深呼吸ひとつ。そしてドアノブに手をかけた。
——本当に…このまま進んでいいの?
そんな迷いが、ふとよぎる。けれどその瞬間。
ガラスの向こうに那色の姿が見えた。その瞬間、羅華は心臓を掴まれたような気がした。
姿が見えただけなのに、迷う心とは裏腹に体が勝手に動く。羅華の手は、自然とドアを押していた。
冬が一段と強まったせいで、冷えた空気が街の隅々に張りついて離れなかった。
夜中羅華は自宅に戻るでもなく、会社に居残るわけでもなく、ただ駅のベンチに腰掛けていた。手にはホットコーヒー。ぬるくなった缶を包む指先に、じんわりとした温もりが残る。
“誘う”という一言。その覚悟を持つことが、こんなにも難しいなんて。
数日前の鎌田の言葉が、今も胸の奥で燻っている。
動いて、何かが変わってしまったら。今の曖昧な関係さえ壊れてしまったら…怖い。けれど。
——このままじゃ、何も変わらない
羅華は自分に言い聞かせるように立ち上がった。
歩きながら思い出す。女性客と親しげに話す那色の姿。家に来たあの夜、電話越しに交わされていた「ラン」という名前。自分の知らないところで、彼にはいくつもの“顔”があるのかもしれない。
でも、知りたい。目を逸らすばかりじゃ、何も進めない。
駅から数分歩き、見慣れたバーの看板が視界に入る。ガラス越しに覗けば、いつものように店は穏やかな空気に包まれていた。
深呼吸ひとつ。そしてドアノブに手をかけた。
——本当に…このまま進んでいいの?
そんな迷いが、ふとよぎる。けれどその瞬間。
ガラスの向こうに那色の姿が見えた。その瞬間、羅華は心臓を掴まれたような気がした。
姿が見えただけなのに、迷う心とは裏腹に体が勝手に動く。羅華の手は、自然とドアを押していた。