蜜味センチメンタル
「お店、入らないんですか」
那色の問いかけに、きゅうと胸がなる。
「…うん、ごめん。ちょっとだけ寄ろうかと思ったんだけど、やっぱり疲れてて」
「そうですか…」
気まずい空気が流れる。その静寂を破ったのは、那色のほうだった。
「次に羅華さんに会えたら、言おうと思ってたことがあるんです」
「…なにかな?」
無理に口角を上げて微笑んだつもりだった。でも、那色の目はその奥の迷いを見透かしていた。
「クリスマス、デートして欲しいんです」
「……え?」
それは羅華が伝えようと思っていた言葉。思わず問い返した声は、かすかに震えていた。
「忙しいって分かってます。けど、数分でもいいから会いたいんです」
羅華は迷った。言葉をのみこみ、視線を彷徨わせる。
そして――
「クリスマスの夜、お店で待ってます。…来てくれなかったら、羅華さんのこと、諦めます」
那色の声は、真っ直ぐで、どこまでも静かだった。
返事も待たず、言葉だけを残して去っていく那色の背中。
羅華の心は、ひどく揺れ動いていた。