蜜味センチメンタル
「頭では分かってた。羅華さんが僕のこと信用しきれてないんだって。仕方ないですよね。だって実際女癖悪かったし。自業自得だなって、思ってたけど……」
那色の声が、ふと落ち着いた。
「それでも、やっぱり……ちょっとだけ、傷ついたんですよ」
笑うでもなく、怒るでもなく、ただぽつりと呟くように。
「いくら好きになったって、どうせ遊びでしょって思われるの、けっこう、つらかったです」
那色は、繋いだ手にそっと力をこめた。
「諦めたくはなかったけど、これで最後だって望みをかけて誘って…怖くならないわけないじゃないですか」
那色の言葉の一つひとつが、胸の奥に静かに降り積もっていく。羅華は俯きかけた視線をゆっくり上げて、隣を歩く那色を見つめた。
「ごめん…正直、那色くんこと疑ってた」
声は小さくても、気持ちは真っ直ぐだった。那色の顔を見るのは、ほんの少しだけ勇気がいった。
「お店でお客さんと仲良さげに話してるところとか見たら…私以外にも、そうやって笑いかけるんだって思ったり」
「っ、それは、」
「あと…この間、うちで『ラン』って人と話してたでしょ?仲良さげだったから、特別な女の子なのかなって…」
「は?嵐?」
少しだけ、那色の声に焦りが混じる。
「あの、誤解です。嵐は男です。前に話したでしょう?昔から何かと一緒になることが多い奴がいるって、それが彼なんです」
「うん、分かってるよ」
あっさりと答えた羅華の一言に、那色が一瞬言葉を失ったように「は?」と間の抜けた声を漏らす。
羅華は、そっと口元に笑みを浮かべた。
「嵐さんに会ったの。仕事の帰り、偶然ね。そのときに“よく名前で勘違いされて那色の修羅場に巻き込まれるけど、男です”って」
「なっ…!それ、いつの話ですか!?」
「先週」
「あいつ…!余計な事言いませんでした?」
「那色くんの昔の女関係が、想像以上に派手だったことは聞いたかな」
「……そ、それは……昔のことで……」
「あと——」
羅華は立ち止まり、那色を見上げた。
「恋の病だとも言ってた。…この前撮った私の写真、待ち受けにしてるって」
「……」