蜜味センチメンタル
今度こそ、那色は何も言わなかった。ただ、目を伏せたまま、真っ赤になった耳だけがすべてを物語っていた。
そんな彼の横顔を見て、胸が高鳴った。
「…あの写真、消してって言ったのに」
「……やだって言いました」
那色はまた少し、拗ねたように唇を突き出す。
その表情があまりに子供っぽくて、思わず笑ってしまいそうになる。けれどそれが那色なりの照れ隠しなのだと、今なら分かる。
「……ずるいね、那色くん」
「ずるい?何が?」
「そうやって人の心の隙間に入ってくるのうまいんだもん。誰にも入り込んで欲しくなかったのに」
「……それ、そっくりそのままお返ししますよ」
口を尖らせながらも、返す声は少しだけ低くなっていた。
「え?なんで?」
「なんでもです」
ふたりの足取りが、ふと止まる。
「…僕、羅華さんのこと好きだけど、そういう鈍いところはむかつく」
イルミネーションの光が、那色の横顔を淡く照らした。
彼はまっすぐに羅華を見つめた。
「……え、今、なんて」
思わず聞き返すと、なんとも言えない顔をした那色が羅華を見る。
「耳まで遠くなったんですか?こんな恥ずかしいこと、何回も言わせないでくれます?」
相変わらずの物言い。けれどそう言った那色があまりに不貞腐れた顔をするから、余計に照れ隠しを感じてしまう。
それでも。
手を引かれ、向かい合って見えた那色の顔は真剣そのものだった。
「…羅華さんが、好きです」
「……」
「……来年のクリスマスも、あなたと過ごしたいです」
胸が詰まって、言葉が出ない。何か返さなきゃと思うのに、口から出てくるのは白い吐息だけだった。
「……僕の、恋人になってくれませんか」