蜜味センチメンタル
部屋に着くまでの道のりは、どちらからともなく他愛のない話をしながら歩いた。
プレゼントもなければ特別なレストランもない。
けれどこの夜がきっと、羅華の記憶に深く残るとわかっていた。
小さな部屋に入ると、玄関に置いてあるディフューザーの甘い香りが出迎える。
廊下の明かりをつけ、スリッパに足を入れる。隣に並んだもう一組のそれに、那色が微かに笑った。
「恋人として部屋にくるのは初めてなのに、既に僕用のスリッパがあるなんて変な感じですね」
「それ、君が言うの?」
どこか呆れたように羅華が言うと、那色が後ろからそっと抱きしめてきた。
「…でも、これからはこうして触れることを我慢しなくていいんですね」
耳元に顔が寄せられ、甘い声が鼓膜を揺らす。
湧き出すように身体中を駆け巡る熱に、羅華は那色を押し返した。
「ど、どの辺が我慢してたのよ…!添い寝とか、好き勝手してたじゃないっ」
「……。やっぱり羅華さんて、男をナメてますよね」
「別にナメてなんか…」
「好きな子前にして本当に何もせず、添い寝だけで済ませる男がどれだけいると思います?」
「……」
——知らないよ
その言葉は、重ねられた那色の唇に溶けた。
「ん…」
かつての罪悪感や不安だらけのものとは違う、ただただ甘いだけのキス。優しい触れ方は変わらないのに、今はひどく幸せに感じた。
唇が離れ、見つめ合う。
そしてもう一度、そっと距離を縮めていく。