蜜味センチメンタル
思わず言葉が詰まった。
こっちが用意する側のはずだったのに、そんな風に聞かれるとは思っていなかった。
「えっと…実はバレンタイン、私が那色くんにあげようと思ってたんだけど……」
「本当ですか?嬉しいです。もちろんそれも楽しみですけど、僕もお返し用意したいなと思って」
「それ、ホワイトデーじゃないの?」
「違います。僕は“バレンタインにもらえる男”じゃなく、“バレンタインを渡したいくらい好きな人”になりたいんですよ」
「……なにそれ。意味分かんない」
「意味分からなくても、想いは伝わってほしいです」
真面目な顔をしてそう言うから、反論できなかった。
少し前まで、こんな風にストレートに気持ちを伝えてくる人は苦手だったのに――
今では、それが嬉しくてたまらない。
「……じゃあ、サプライズは諦めて、何が欲しいか聞いてもいい?」
「だめです」
「え?」
「羅華さんが、僕のために何かを考えてくれてるってだけで、もうすでに満点だから」
「……ずるい、そういうとこ」
「知ってます」
素知らぬ顔で笑って、那色は再び羅華の手を取る。
彼の手は少しだけ冷たくて、でも心地よいぬくもりが確かにそこにあった。
ふたりはそのまま、ゆっくりと街を歩いた。
通りには、ハートのオブジェやピンク色のガーランドがあちこちに飾られていて、どこもかしこもバレンタイン一色だった。
「……こういうの見ると、ちょっとだけ浮かれたくなるよね」
「確かに。バレンタインって、魔法かけられてるみたいですよね。普段照れくさいことも言えるようになる感じ」
「魔法って…たとえば?」
「そうだなぁ……羅華さん、今日も世界で一番可愛いですよ」
「えっ……」
「たとえば、こんな感じ?」
「も、もう…!冗談だったのっ?」
「本心ですよ」