蜜味センチメンタル
さらりと笑って、何気なく那色は羅華の髪に触れる。
指先が軽く耳元の髪を払っただけなのに、羅華の鼓動は簡単に早くなってしまう。
——もう、ほんとずるい……
そっぽを向きながら歩いていたら、ふと那色が立ち止まった。
「ちょっと、寄っていきません?」
「え?どこに?」
視線を向けた先には、白い外壁と木製の看板が目を引く小さなカフェ。
窓辺には焼き菓子のディスプレイと、チョコレートをモチーフにした季節限定のデザートメニューが飾られている。
「そろそろ甘いもの、食べたくなりません?」
「……たべたい」
「だと思いました。梅見たら甘いの食べたくなったから。僕達似たもの同士ですし、羅華さんも同じかなって」
「私、那色くんみたいに大食いじゃないもん」
「そういう意味じゃないですよ」
軽口を言い合いながら、カラン、と扉を開ける。小さな鈴が音を立てて二人を迎えた。
中は木の温もりがあふれる空間で、冬の寒さから逃げ込むにはぴったりだった。
通されたのは、窓際の席。外に咲いた梅の花がかすかに見える位置で、午後の日差しがテーブルを穏やかに照らしている。
メニューをめくると、季節限定の文字が目に飛び込んできた。
「ねえ那色くん、これ見て。チョコとベリーのミルフィーユだって」
「羅華さんの好きな組み合わせですね。僕は……キャラメルのガトーショコラにします」
「わあ、絶対そっちも美味しいやつ……」
「なら、半分こにします?」
「うん、したい」
どちらともなく笑い合って、注文を済ませると、店内の静かな空気に自然と深呼吸が漏れた。
温かい飲み物と甘い香り、そして彼の隣。
それだけで、羅華の心は満たされていた。