蜜味センチメンタル
「羅華さん……大丈夫ですか?」
「うん……ごめんね、ちょっと待合室待っててほしいの。お医者さんからお母さんの病状で話があるって」
「わかりました。何かあったら、すぐ呼んでください」
そう言って微笑んでくれた那色の手を、そっと握り返す。
——那色くん……本当は、そばにいて欲しい
けれどそんな無茶は言えない。看護師に連れられ去っていく那色の背中に、ひどい切なさを感じた。
不安を抱えたまま、重い足取りで羅華は再び病室の扉をくぐる。
弥が母のベッド脇に立ち、説明の準備を進めていた。
「症状は、初期の慢性腎炎の進行によるものです。急を要するような段階ではありませんが、このままでは生活に支障が出る可能性もあります。入院して、安静と治療を兼ねて経過を見ていく形になります」
弥の声は淡々としていたが、的確で安心感があった。
母はどこか、複雑そうな面持ちで聞いていた。
羅華は、傍らで静かにメモを取りながら、その心は動揺で満ちていた。
——…相変わらず、真面目な話し方。昔と変わってない……
そう思った瞬間、自分が“弥”を過去の誰かとしてではなく、“今の彼”として受け止めていることに気づく。
——私は今、何を思った……?
気づかぬうちに、心がまた少し揺れ動いている。
でも、それが何なのかは、まだ言葉にできなかった。