蜜味センチメンタル
「じゃあ、僕からも」
那色はそう言って、自分のリュックを手に取った。
「え? 何?」
「僕の気持ちです」
そう言って取り出されたのは、小さな紙袋と、淡いグレーの封筒。
「……開けていい?」
「もちろんです」
羅華がそっと封筒を開けると、中から出てきたのは手書きのメッセージカード。
——“今がどんな形でも、羅華さんと過ごす時間は、いつも僕にとって特別です。これからも、そんな時間を一緒に刻んでいけたら嬉しいです。”
「……」
読みながら、羅華はそっと唇を噛んだ。
文字は柔らかく、けれどどこまでもまっすぐで、彼の真剣さがそのまま伝わってくるようだった。
それともうひとつ。袋の中には、小さな陶器の器に入った、チョコレートスフレが入っていた。
部屋のレンジで軽く温め直すだけの、手軽で特別な“甘いひととき”。包みには、そんなキャッチコピーが書かれていた。
「これ……」
「市販ですけど、そのキャッチコピーが気に入って。そうなったらいいなって、僕の願望です」
「……ふふ、なにそれ」
あたたかい。……けれど、その確かなぬくもりに、ひとつだけ小さな影が差した。
——こんなにも、心を尽くしてくれるのに。
時々、自分がそれにちゃんと応えられているのか、不安になる。
最近、ふとしたときに思い出してしまう。
母のこと。病室のあの光景。そして、弥の声。