蜜味センチメンタル
・*†*・゚゚


羅華がスフレを口に運んだ。

スプーンを持つ手は細くて華奢で、
その仕草ひとつひとつを、那色は愛しく見つめていた。

彼女の横顔。
伏せられた睫毛の影。
甘い香りの残る空気の中で、心が静かに満たされていく——はずだった。

けれど、どこかが、少しだけ違っていた。

気のせいだと、思いたかった。


けれどそれを否定するような、小さな沈黙。
笑ったあと、すぐに視線をそらすような仕草。
どこか遠くを見ているような、ほんのわずかな虚ろさ。

それはきっと、誰も気づかないようなかすかな揺れ。
でも那色には分かる。それだけ、羅華のことに関しては敏感だから。


——羅華さん。
今僕のこと、ちゃんと見てくれてる…?


その疑問が胸をよぎった瞬間、やわらかな夜の空気が、ほんのすこしだけ冷たくなった気がした。

チョコレートスフレの包み紙には、
“特別な甘いひととき”と書かれていた。

彼女と過ごす時間は、まさにそうだった。
何気ないけれど、特別で、心がほっとする。
それだけで、十分に幸せだった。

……それだけ、のはずだった。

——それでも、もし……

もし、彼女の心のどこかに、まだ“誰か”が残っていたとしても。

過去の記憶が、まだ彼女を揺らしていたとしても。

たとえその誰かが、彼女の心の深くに刻まれていたとしても。

——…僕は、離すつもりなんてない

どれだけ不安になっても。心がぐらついたとしても。
彼女を信じたい。これからを積み重ねるのは、自分でありたい。

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