蜜味センチメンタル
それは、もうとっくに覚悟していたことだった。
だから、問い詰めることも、確かめることもしない。
そんなことをして彼女が傷つくのならそれこそ、本末転倒だ。
不安を押し込めたまま、笑ってみせる。
「……今日、会えて嬉しかったです」
声が少しかすれたのは、ただの気のせいだ。
羅華は顔を上げて、笑った。
その笑顔は少し時間をかけて、ゆっくりと浮かんできた。
「……私も。ありがとう」
それだけで、今は十分だと思った。
いや、本当は、足りない。
もっと知りたいし、触れていたい。
でも、その一歩を踏み出すのは今じゃない。
彼女が自分の手で、自分の過去に決着をつけるまで。
自分は、ただそこにいる。
待つと決めたのだから。
そうして立ち上がり、玄関を出た。
部屋の灯りが閉じる音がして、夜の空気がほんの少しだけ重たくなった。
——大丈夫。ちゃんと、信じる
誰よりも、彼女の「いま」を。
それでも、胸の奥では微かなざわつきが消えずにいた。
生ぬるい空気を肌に感じながら、那色は目を伏せ、そっと息を吐いた。
たとえ、揺れているとしても。
——それでも僕は、羅華さんを、絶対に手放さないから