蜜味センチメンタル
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パソコンのディスプレイに映るプレゼン資料を睨みつけるように見ながら、羅華は軽く額を押さえた。

スマホの通知音が鳴るたびに、胸が無意味にざわつく。けれど、あの人からのものではないと知っているのに、どこかでそれを考えてしまう自分が嫌だった。

“まだ、忘れられない”

その言葉は、弥のものか、それとも自分自身のものか。境目が曖昧になっていた。

——こんな状態で、何を選べるっていうの……

心のどこかで答えは出ていたはずなのに、踏み込む勇気が出せないまま、羅華は仕事に逃げるように打ち込んでいた。

「原岸さーん」

気を張り詰める羅華に、鎌田の延びした声がかけられた。

「シスイ食品の蓮水さんから折り返し来てます。“来週中に一度、式典の現地候補地見ておきたい”って」

決して気を抜けない会社の名前に、はっと我に返る。

「あ、うん……ありがとう。スケジュール調整して、ホテルの下見も兼ねて連絡返すよ」

「お願いしまーす」

鎌田は興味なさげにそういい、あっさりと去って行く。業務について答える自分の声は、妙に落ち着いていた。
どれだけ心が波打っていても、仕事をこなす自分だけは、どこか機械的に動いてしまう。

羅華はそのままの体勢で、新たにウィンドウを開きパソコンのキーボードを叩く。

「場所は都内のホテルって話だったけど……グループ系列のグランド・ヴィリオあたり、押さえておいた方がいいかな……」

メモを打ち込みながら、視線は資料の端にある企画候補だった「未来への食文化の提案」というコピーに止まった。

(未来、か……)

羅華は、小さく息を吐いた。

誰かと“未来”を考えることなんて、したこともなかった。

けれど。クリスマスの日、ようやく自分の気持ちと向き合うと決めた日。那色が好きだと言ってくれたとき、彼とずっと一緒にいたいと思った。——それは、嘘じゃない。

そうだったはずだ。
那色と過ごしてきた日々、そのひとつひとつに、嘘はなかった。

……だめだ…また余計なこと考えてる

今は仕事に集中しないといけないのに。
思考を打ち切るように、羅華はノートPCをぱたんと閉じた。

歩き出したその足には、まだ迷いが残っていた。
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