蜜味センチメンタル

数日後。都内のホテル「グランド・ヴィリオ」のラウンジスペースにて。

柔らかな絨毯の上を歩く足音が、周囲の雑踏に紛れて消えていく。羅華は資料の入った黒いフォルダを脇に抱えながら、応接用の丸テーブルに足を進める。

そこではすでに、担当者である蓮水が待っていた。

「お疲れ様です、蓮水さん。お待たせして申し訳ありません」

羅華が声をかけると、相変わらずの神経質そうな蓮水の目が羅華を射抜く。

「いいえ、私も今きたところですので。ご無沙汰しています、原岸さん。連絡してからの早速の対応、ありがとうございます」

「こちらこそ、急だったにも関わらずスケジュールをいただきありがとうございます」

義務的な挨拶を交わし、式典が開かれるホールへ共に足を進める。その道すがら、歩きながら羅華は蓮水に企画書を手渡した。

「70周年式典ですが、会場はこのホテルで仮押さえできそうです。収容人数と導線的にも、御社のご希望に合ってるかと」

「ええ、問題なさそうですね。内容についても“世代をつなぐ食文化”というコンセプト、弊社でもすごく好評ですよ」

「ありがとうございます。だからこそ、より広い世代に響かせたいと思っていて……」

そこで、羅華は少し言葉を置く。


「収容人数、機材、動線……すべて条件クリアしています。来場者の導線も比較的スムーズなので、現段階ではこちらで問題ないかと思っておりますが、いかがでしょうか?」

「ええ。ここなら上の者も納得すると思います」

蓮水は軽く頷きながら、資料に目を通す。
羅華は一呼吸置いて、次の話題に切り出した。
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