蜜味センチメンタル

蓮水が手元の資料を一通り確認し、最後にひとつ頷いた。

「原岸さん。この件、前向きに持ち帰らせていただきます。話を聞いてるうちにただの賑やかしじゃないと伝わってきましたので」

「ありがとうございます。ご検討、よろしくお願いします」

ふたりは再びラウンジへと戻り、軽く会釈を交わして別れた。

ロビーの自動ドアが開き、外の風がふわりと入り込む。

羅華は腕時計に目をやる。午後7時過ぎ。仕事終わりの喧騒が始まる時間。

ひとまずは、やるべきことをやった。
そう思うはずなのに、胸の奥にはどこか言葉にできないざわつきが残っていた。

——「企業と並んで立っても違和感がない人間かどうか」

さっき口にしたその基準が、なぜか今も頭の中で反響している。

誰かと肩を並べること。
何かを共にすること。

それが「自然だ」と思える関係は、仕事でも、それ以外でも、そうそうあることじゃない。

(……私は、いま、誰と並んでいたいんだろう)

そんな問いが、不意に胸の奥を突いた。

スマホが震える。
ディスプレイには、あの名前が光っていた。

——那色くん

[今夜、会いに行ってもいいですか?]

羅華は一度だけ目を閉じ、それから静かにスマートフォンを手に取った。

小さな吐息とともに、夜の街へと歩き出す。

その先に、答えが待っている気がした。
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