蜜味センチメンタル
「……ごめんなさい。驚かせてしまいましたよね」
那色の声は、どこか寂しげだった。けれどそれ以上に、彼の言葉には覚悟のような静けさがあった。
「正直、就職先のことも、名字のことも、ずっと言うタイミングを逃してました。……どんどん羅華さんとの距離が近くなっていく中で、怖くなったんです。家柄といい出生といい……こんな複雑な環境にいる僕なんかを受け入れてもらえるのか、重すぎる荷を、あなたに背負わせることになるんじゃないのかって」
「……そんなの……」
羅華は、ようやく喉の奥から言葉を押し出す。
「……そんなの、勝手に決めつけないでよ…」
声が震えていた。怒りでもなく、悲しみでもなく、そのどちらにも似つかない感情が混ざっていた。
「私、那色くんをそんな目で見たことなんか一度も無い。きみは最初から口が悪くて、デリカシーもなくて、自分勝手で……」
「羅華さん、僕のことそんな風に思ってたんですか」
「だけど……誰より繊細で、優しいきみだから、私は好きになったんだよ」
那色は何も言わなかった。ほんの少し、唇が震えていた。
「……私、最初に那色くんを好きかもって気づいたとき、正直、戸惑った。私にはもう一度誰かを信じる余裕なんてないと思ってた。……でも、それでも一緒にいたいって思ったのは、那色くんだったからだもん」
ゆっくりと、羅華は那色に向き直った。