蜜味センチメンタル
「羅華ちゃん……あなたにはずっと、無理ばかりさせてきたわね」
母は目を伏せ、手のひらを重ねて膝の上で握った。
「お父さんのことがあってから、私は……娘のあなたに縋りすぎてた。自分の不安や寂しさを埋めてもらいたくて、あなたの未来のことまで勝手に決めようとしてた。……気づいてたのに、見ないふりをしてた」
「お母さん……」
「……ごめんね」
その言葉には、はっきりとした重みがあった。
「もう、あなたの人生に、私の不安や過去を持ち込んだりしない。……あなたが選んだ人と、あなたの足で歩いていけるように、ちゃんと応援する。……だから、羅華ちゃん。どうかその人と幸せになってね」
羅華の目に、ふっと涙がにじんだ。
こぼれる前にまばたきでそれを追いやって、母の手をそっと握る。
「うん……ありがとう」
その手は少し冷たかったけれど、今はただあたたかかった。
ようやく交わせた言葉が、胸の奥の固くなった何かをゆっくりと溶かしていく。
「……那色くんの話、今度ちゃんとするね」
「ええ。楽しみにしてるわ」
ふたりの間に、ようやく静かな微笑みが灯った。
——まだ、完全にわだかまりが消えたわけじゃない。
けれど、もう逃げなくていい。
羅華は、母との手をそっと離し、ゆっくりと立ち上がった。
このあとは、もうひとつの“終わり”を迎えるために、向かわなければならない場所がある。
そしてその先にある始まりを、自分の手で選ぶために。