蜜味センチメンタル
「元気出た?おねーさん」
「えと……はい。ありがとうございます」
「いーえ。てかおねーさんってラカちゃんっていうんだね。かわいい名前〜!ね、俺もそう呼んでいい?」
「えっと……」
「嵐、いい加減にしとかないと那色のやつキレて何するかわかんねえぞ」
「おーこわ。でも確かにあの独占欲モンスター、どっからでも聞きつけて飛び込んできそうだしなあ」
「……」
羅華が苦笑すると、嵐が満足げに笑った。
「ま、でも、一杯くらいはこのまま付き合ってよ。相談料としてさ」
嵐がいたずらっぽくウインクして、グラスを軽く傾けた。
「……ほんと、軽いですね」
そう言いながらも羅華は小さく笑う。自分のグラスに残った氷の音を確かめるように鳴らした。
その音は、さっきよりずっと柔らかく聞こえた。
「じゃあ……一杯だけ」
「やった!ぷぷーっ!那色のやつ、俺がラカちゃんと飲んだって聞いたらどんな顔するかな〜?今度言ってやろ」
「嵐……お前がそんな死にたがりだとはな…。あとでどうなっても俺は知らねえからな」
大和が呆れながらグラスを取る。氷とリキュールが重なる音が、夜の静けさをほんのり染めていく。
店の外には冷たい風が吹いていたけれど、カウンターの周りだけはあたたかかった。
羅華はふと、肩の力を抜いて目を閉じた。
正直まだ揺れている。けれど、きっと前に進める。
——今度こそ本当の意味で、ちゃんと彼を受け入れ、並ぶために。
そんな思いが胸の奥に、静かに灯り続けていた。
夜はまだ深く、けれど少しだけ優しかった。