蜜味センチメンタル
胸の奥に、ぽたりと水滴が落ちたような感覚があった。
痛みではない。けれどそれは確かに、自分の中に何かを満たしはじめている。
——私が、彼の“選びたい人生”の唯一だった。
そんなふうに思われることがどれほど大きな意味を持つのか。ようやく、その重さが心に届いた気がした。
けれど同時に、別の感情も胸を締めつける。
「……でも、私なんかが……」
その言葉が、思わず口をついて出た。
「私なんかが……彼の“選んだ先”にいていいのか、わからなくて……」
声が震えそうになるのを、無理やり抑えた。
グラスの中の氷がカランと鳴る。嵐は何も言わず、それを聞いていた。
すると、大和がゆっくりと口を開いた。
「羅華ちゃん。自分を小さく見積もるのは、まだ本気で相手を信じきれてないときによくあることだよ」
「……!」
「那色が君を選んだことを疑ってはいないんだろ?だったら、今度は君があいつの選択を信じてやってくれないかな」
その言葉に、羅華の中で何かがほどける音がした。
信じる、ということ。
それは自分の価値を受け入れること。
怖い。今も怖い。
けれど、それでも。
——彼を、信じてみたい。
自分自身と、彼がくれたあの眼差しを。
「……」
羅華はゆっくりと目を閉じた。呼吸の仕方を確かめるように、胸の奥で静かに何かを抱きしめる。
「……はい…」
震えかけた声でそう呟くと、嵐がにやりと笑った。