蜜味センチメンタル
——どうせ、それが“お目当て”なんだろう?
ふと、そんな皮肉が脳裏をかすめた。
この手の見透かすような会話には慣れている。微笑の裏に何を見せるか、何を隠しているか。それを問うような視線には、心が乾く。
値踏みするようなその目は正直好きじゃない。けれど顔には一切出さない。
そういうことが付きまとうのを覚悟で、ここに立っているのだから。
「紫水という名前を聞いたとき、もしやと思ったんです。やっぱり……社長のご子息だったんですね」
その言葉に、那色は軽くうなずいた。
「形だけは、そうなります」
藍良はグラスを傾け、ほんの一拍だけ間を置いてから言った。
「でも、不思議ですね。……那色さんって、よくも悪くも“家庭の匂い”がしない」
「……」
「お育ちの良さや品は感じますけど、温度とか、ぬくもりのようなものが希薄というか……あ、決して悪い意味ではありませんよ?」
那色はわずかに苦笑し、言葉を返す。
「そう言われることはよくあります。……ですが、それが何か?」
那色はわずかに苦笑しながらも、問いに対して曖昧に答えた。
藍良はグラスをくるりと軽く回しながら、その中身を一瞥した。まるで答えを測るように、ゆっくりと。
「いえ。ちょっと、思っただけなんです」
彼女は再び那色を見上げ、口元だけで笑う。
「私も……そうなんですよ。家庭のぬくもりとか、普通の幸せってやつにどうも縁が薄くて」
「……」
「だから、たぶん余計に、そういう空気の人ってすぐわかるんです。どこか似てるなって」