蜜味センチメンタル
その“似ている”という言葉には、ほんの少し、湿度があった。乾いた過去と、他人を試すような静かな視線。
「だから──」
藍良は一瞬、視線を横に流す。だが那色がその動きに気づく前に、また目を戻した。
「那色さんも、そういう人に惹かれる傾向……ありませんか?」
言葉は柔らかい。けれど、その奥には微かな棘が潜んでいる。
咄嗟に浮かんだ愛しい顔。
出会った頃の、羅華の憂いを帯びた表情。
——“自分と同じ、愛の不在を知る女”を、あなたは選んだのでしょう?
嘉島の声は、そういう含みを帯びていた。
那色はわずかに表情を崩したが、すぐにそれを隠すように目を伏せた。
「……さて。どうでしょうね」
本心を悟らせないよう、少し低く抑えた声。笑顔は崩さず、それでも心の奥で、何かが静かにざわめいていた。
そのときふと、嘉島がグラスを手にしたまま再び視線を逸らす。
何気ないように見えたその動きに、那色はわずかに眉を寄せた。その視線の先を追うように、那色もわずかに顔を向ける。
すると——
会場の端、スタッフ用の動線近くに、羅華の姿があった。
黒いリボンを胸元に着け資料を抱えたまま、彼女はその場に立ち止まっていた。明らかに偶然見かけただけではないような顔で、じっと、こちらを見ていた。