蜜味センチメンタル
・*†*・゚゚
式典PR撮影が終わった後の控室は、嘘みたいに静かだった。スタッフたちは次のセッティングへ移動し、照明もすでに落とされている。
残っているのは机の上に置かれたペットボトルの水と、使いかけのメイク用ティッシュだけ。
羅華はひとり、控室の片付けを進めていた。手に持った資料の角を、無意識に何度も指先でなぞっていた。
「……まだいたんだ」
背後から声がかかったのは、そのときだった。
振り返らずとも分かる。藍良だ。
ゆっくりと入ってくるヒールの音。静寂に溶け込むような足音が、かえって胸を締めつける。
羅華はそっと振り返った。
「……お疲れさまでした」
精一杯仕事のトーンを保って言うと、藍良はふっと嘲るように笑った。
「ちょっと。あからさまに避けようとしないでよ」
急に昔の口調に戻った藍良に、羅華の心臓がどくりと嫌な音を立てる。
羅華の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。あの頃の空気が、一瞬で蘇る。
——どうして、いまその口調で。
「……避けてなんか、いません」
かすれる声で返すと、藍良はヒールの音を響かせながらわずかに間合いを詰める。
「ほんと?でも目を合わせようともしないじゃない。そういうところ、変わってないのね」
笑っているのに、声は鋭い。表面上は大人の余裕を装いながら、その奥には明確な棘が潜んでいた。
「……今になってまた《《私たち》》の前に現れてきてさ。ほんとあんたって、どこまでも図々しいよね」
その言葉は決して冗談ではなかった。憎しみとも軽蔑ともつかない感情が滲んでいた。
羅華は唇をかすかに噛み、何も言えずに立ち尽くす。
式典PR撮影が終わった後の控室は、嘘みたいに静かだった。スタッフたちは次のセッティングへ移動し、照明もすでに落とされている。
残っているのは机の上に置かれたペットボトルの水と、使いかけのメイク用ティッシュだけ。
羅華はひとり、控室の片付けを進めていた。手に持った資料の角を、無意識に何度も指先でなぞっていた。
「……まだいたんだ」
背後から声がかかったのは、そのときだった。
振り返らずとも分かる。藍良だ。
ゆっくりと入ってくるヒールの音。静寂に溶け込むような足音が、かえって胸を締めつける。
羅華はそっと振り返った。
「……お疲れさまでした」
精一杯仕事のトーンを保って言うと、藍良はふっと嘲るように笑った。
「ちょっと。あからさまに避けようとしないでよ」
急に昔の口調に戻った藍良に、羅華の心臓がどくりと嫌な音を立てる。
羅華の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。あの頃の空気が、一瞬で蘇る。
——どうして、いまその口調で。
「……避けてなんか、いません」
かすれる声で返すと、藍良はヒールの音を響かせながらわずかに間合いを詰める。
「ほんと?でも目を合わせようともしないじゃない。そういうところ、変わってないのね」
笑っているのに、声は鋭い。表面上は大人の余裕を装いながら、その奥には明確な棘が潜んでいた。
「……今になってまた《《私たち》》の前に現れてきてさ。ほんとあんたって、どこまでも図々しいよね」
その言葉は決して冗談ではなかった。憎しみとも軽蔑ともつかない感情が滲んでいた。
羅華は唇をかすかに噛み、何も言えずに立ち尽くす。