蜜味センチメンタル
藍良は、そんな羅華を見下ろすように目を細める。
「ねえ、どうしてあのとき言わなかったの?私があんたを突き落としたって。言えばよかったじゃない。私はいじめに遭ってるんだって」
「………」
「何?黙ってれば“かわいそう”って見てもらえるとでも思った?母さんも兄さんも奪って、次は何?」
藍良から向けられる冷たい視線が、過去を彷彿とさせる。無意識に体が震えた。
——変わらないのは、そっちだって同じじゃない
伏せていた視線をスッと上げ、羅華は初めて藍良を見つめる。
「……私のこと、まだ、恨んでたんだね」
そう言うと藍良は少し眉を上げ、そしてふっと笑う。
「……恨んでるとか、そんな単純な感情じゃないわよ。私はあんたのことは、一生忘れない」
「……」
「ていうか、恨んでるのはあんたの方でしょ?じゃなきゃ、そんな顔しない」
その言葉が、胸の奥に鋭く突き刺さった。
目の奥が熱くなる。無意識のうちに握りしめていた資料が、かすかに震えていた。
——悔しい……
過去はもう超えたと、向き合えるようになったと思っていた。けれど今の自分は、またあの頃のようにただ立ちすくんで、何も言えずにいるだけ。
昔と今を、重ねてしまう。
どれだけ乗り越えたつもりでも、自分の中にはまだ、あの頃の自分がいる。
けれど。
そのときふと、嵐や大和の言葉が胸の奥に蘇ってきた。
──『那色が君を選んだことを疑ってないなら、今度は君が、あいつの選択を信じてやってくれないかな』