蜜味センチメンタル
「……不安にさせたんじゃないかって、心配だったんです」
那色の声は、静かな夜の空気に溶けるように優しかった。
「嘉島さんといるところ、見てましたよね?」
その問いかけに、羅華は少しだけ目を開いた。
「……気付いてたの?」
「…いえ。気付いた時には遅くて、羅華さんがどこかに行っちゃうところでした」
「……」
「久しぶりにやっと会えたのに……あんな顔をさせてしまってごめんなさい。けど、彼女とは初対面ですし、本当に何もありません。話してたのも、ただの社交辞令てす」
いつもの那色らしくない、どこか必死に言い訳を探すような様子に拍子抜けした。先ほどまでの完璧な御曹司とも違う、羅華だけが知っている、那色の顔。
そのことが、何よりも嬉しかった。
「……謝らないで、那色くん」
肩に手を添える那色の腕に、羅華はそっと触れた。
「私が悪いの。ちゃんと那色くんの事、受け入れたつもりになってた。だけど今日みたいな場所で遠くにいる君を見て……勝手に決めつけてた。私なんかより、彼女みたいに綺麗で実力もあって、知名度もある人の方がいいんじゃないかって」
「!そんなこと…っ」
声を荒げ、肩を握る手に力が入る。羅華はそれを遮るように「でも、」と強く言った。
「私が間違ってた。ちゃんと那色くんのこと、信じてなかったのは私だった。……だから、本当にごめんなさい」
羅華の謝罪に那色は何も返さない。複雑そうな面持ちで、言葉を探しているように見えた。
羅華はひと息おき、もう一度口を開いた。