蜜味センチメンタル

「……那色くんにはまだ言えてなかったけどね、彼女──嘉島藍良はね、私の中学までの親友だったの」

羅華の静かな告白に、視線を彷徨わせていた那色の視点が定まる。

「……え、それって……」

「そう。私が付き合ってた先輩……弥くんの、妹。それから、私をいじめてた人」

「!」

その時の那色の表情は、言葉にするのは難しかった。怒りとも驚きとも取れる、見開かれた瞳。けれどその奥には、確かに羅華への気遣いが滲んでいた。

「結構手ひどくされてね。最終的には、階段から突き落とされて、骨折までした」

「なっ……」

「でも、それでも……私、何も言えなかったんだ」

あの時声を上げれば何かが変わっていたのだろうかと、思う時もある。

けれど同じ孤独を味わうはずの自分が藍良を裏切ったこと、母の泣き叫ぶ声、弥の傷ついた顔──何もかもが喉の奥にまとわりついて、声を出せなかった。

言いながら、羅華は自嘲するように微笑んだ。

那色は、羅華の言葉を遮ることなく、ただ静かに聞いていた。まるで羅華の痛みを、自分の胸の奥にそっと迎え入れるように。

「……そんなことが、あったんですね」

ようやく絞り出した声には、悔しさと優しさが静かに滲んでいた。彼の目がほんの少しだけ潤んでいるように見えたのは、気のせいじゃなかった。

「あなたがどれだけ苦しんだか、全部を理解したなんて、そんな偉そうなことは言えないけど……」

一歩、そっと距離を詰めて、那色は柔らかく微笑んだ。

「でも、話してくれてありがとう。羅華さんのこと、もっと知れて嬉しい。もっと、大切にしたくなった」

その言葉があまりにまっすぐで、胸の奥にじんわりと染み込んでくる。きゅうっと締めつけられるような、でも心地よい痛みが心を満たしていく。

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