蜜味センチメンタル
にこやかに応じながら、那色の立ち居振る舞いには一切の無駄がなかった。
上辺だけのへりくだりではなく、見られることを前提とした立ち回り。生まれ育ちだけで得られるものではないと、来賓の表情もどこか感心していた。
「ステージ周辺の花の配置は、後ほどお伺いします。お気づきの点がありましたら、控室でお申しつけください」
「ああ、大丈夫そうだ。演出チームもしっかりしてるんだな」
「はい。本番もご安心いただけるよう進めてまいります」
やり取りを交わすあいだも、那色の意識の一部はステージの上に留まっていた。藍良の声が、マイクを通して流れてくる。
『……続きまして、特別VTRの上映に移らせていただきます。スクリーンにご注目ください——』
形だけは完璧だった。文句のつけようのない司会ぶり。それがかえって、那色の中にある警戒をより強くさせる。
(……見た目だけで持ち上げられてるだけなら、まだ許せた)
言葉にすることはない。けれど確かに、那色の腹の奥にはぬぐい切れない理不尽さが宿っていた。
リハーサルが進むにつれ、会場全体が静かにひとつにまとまっていく。
式典は間違いなく、成功する。けれどその裏に、消えきらない違和感があった。
那色は、式典本部へ一報を入れたあと、再び視線を前に戻した。
一切の感情を閉じ、ステージ上に一瞥だけをくれ、那色は次に備えるようにひとつ呼吸を整えた。