蜜味センチメンタル
「ないとは言い切れないわ。だって彼女とは同級生で、友人だもの」
──友人?
那色は目を細めた。その厚顔無恥さに、怒りよりもむしろ呆れが湧いた。
いじめていた相手を平然と“友人”と呼ぶ神経。悪びれる様子もなく、それを当然のように口にする姿はまさに自己都合の塊だった。
「羅華ったら、相変わらずしたたかなのね。御曹司を狙うなんて。もっと控えめな子かと思ってた」
那色は黙って聞き流す。だがその沈黙が、彼女をますます気分良くさせてしまったのかもしれない。
「──ねえ、那色さん」
藍良の身体がわずかにこちらへ傾く。
髪をかき上げる仕草が加わり、ソファの背もたれに添えた手が那色の肩口へとさりげなく近づく。
視線は伏せられたまま、長い睫毛の陰からちらりと上目遣いが投げられた。香りがさらに濃くなり、わざとらしさを抑えた甘さが呼吸に混ざり込んでくる。
「……あんな普通の子、あなたには勿体なさすぎる。御曹司とただの一般人。……なんていうか、バランス悪いって思いません?」
そう言いながら、藍良の手がネクタイへと伸びてきた。
指先はまるで偶然を装うように、触れる寸前で静止する。その仕草は、那色の反応を試すようでもあった。
──いい加減、我慢の限界だった。
「だから、あなたの方が似合うって?」
低く、静かな声が響く。だがそこには張り詰めた氷のような鋭さがあった。