蜜味センチメンタル
「……脅すの?」
藍良は目を伏せ、小さく息を呑みながらそう問う。その声には、微かな震えが混じっていた。
「違います。これは“警告”です」
那色は即座に、揺るぎなく言い切った。激情ではない。冷たく沈んだ決意だけが、その言葉にあった。
藍良は何かを言いかけたが、結局何も言わずにゆっくりと立ち上がる。踵を返し、ヒールの音を鳴らしながらその場を後にした。
残されたのは、香水の残り香と、ぴんと張り詰めた空気だけ。
那色は深く息を吐き、ソファの背にもたれる。床に落ちた資料を拾い上げ、何事もなかったように膝の上に戻した。
ただ黙っているだけじゃ、守れない。
──これ以上、彼女を傷つけられてたまるか
静かに、心の中でその言葉を繰り返す。
空間には凛とした静けさと、ひとつの決意だけが残っていた。