蜜味センチメンタル

「責められるのも、独りぼっちなのも、いつも私ばっかり。……ねえ、あんたは何を持ってるの? 見た目? 頭?私とあんたの、なにがそんなに違うっていうの!」

そこまで言ったとき、藍良の目が一瞬だけ、大きく見開かれる。そして怒りを超えた衝動が、そのまま腕を動かした。

「なんであんたばっかり……!」

その叫びと同時に、手が大きく振り上げられる。そして次の瞬間、鋭い平手打ちの音が廊下に乾いて響いた。

──パンッ!

羅華の頬に熱が走る。わずかによろけた身体を立て直し、ゆっくりと顔を戻す。

「……っ」

叩かれた頬を抑え、羅華は黙って藍良を見つめ返した。


昔の自分なら、ここで黙って引き下がったかもしれない。逃げることでしか自分を守れなかったから。

でも今は──違う。


「……もうやめて。藍良」


揺れる呼吸を一度だけ整えた。頬の痛みを受け入れながら、静かに口を開く。

「私は、あなたから何かを奪ったことなんて一度もない」

一瞬も視線をそらさず、藍良を見つめ続ける。

「あなたがどれだけ努力してきたかも、どれだけ孤独だったかも、私にはわからない。でも、ずっと苦しんできたのは、藍良だけじゃない」

言いながら、言葉が自分の中に確かに響いていくのを感じた。

誰かに伝えるためではない、自分自身への確かな肯定だった。
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