蜜味センチメンタル
そっとすくい上げられた手を羅華は恥ずかしさに戸惑いながらも、きゅっと握り替える。すぐに優しく包み込まれ、その掌のぬくもりに胸がとろけるように和らいだ。
那色は満足げに微笑むと、丁寧に歩調を合わせて歩き出す。街のざわめきが遠くなるほどに、ふたりだけの時間が静かに始まっていった。
タクシーを降りると、目の前にそびえる建物は黒塗りの外壁に真紅のリースが映えていた。
磨き込まれた真鍮の取っ手が、夜の街灯を受けて静かに輝いている。
扉越しにわずかに漂ってくるのは、シャンパンの泡とともに立ちのぼるような音楽の気配。中の華やぎを想像するだけで胸がざわめいた。
「……こ、ここって」
羅華は思わず息をのんだ。名前だけは耳にしていた老舗の高級レストラン。
しかし目の前に立つと、あまりの格式高さに足がすくむ。場違いなのではと胸の奥がきゅっと縮こまり、思わず不安げに那色を見上げてしまった。
「ええ。我が家の御用達ってやつです」
那色は何気ない調子で答える。その余裕が、この場所をまるで自宅のように馴染ませていた。
一歩中へ踏み入れると、支配人のネームプレートを胸に掲げた男性がすぐに現れる。
「紫水様、ようこそお待ちしておりました。お連れさまもどうぞこちらへ」