蜜味センチメンタル
名前を呼ばれただけで心臓が跳ねた。那色が御曹司という事実を、こうした場面で今さらに突きつけられる。
けれど同時に、彼の手が自然に自分の背を支えてくれるから、不思議と居心地の悪さは薄らいでいった。
案内されたのは窓際の特等席だった。大きなガラス越しに、街のイルミネーションが一面の星屑のように輝いている。
キャンドルの炎が二人の間に小さな輪をつくり、柔らかな音楽が空気を満たしていた。
「……那色くんて、本当にいい家柄の人だったんだね……」
椅子に腰かけ食前酒を注ぎ支配人が下がったところで、緊張を誤魔化すようについ口をついて言葉が出た。
けれど、向かいに座る那色の表情が一瞬だけ揺れた。
「……そう言われると、線引かれるみたいでちょっと寂しいですね」
苦笑まじりにグラスを傾けながらも、その声音にはかすかな不安がにじんでいた。
その様子に、羅華は慌てて首を振る。
「あっ、ごめんね、違うの。ただ……想像してた以上に特別な場所だったから、なんていうか……まだ知らなかった那色くんの一面を見た気がして、改めてドキドキしちゃって」
言葉を重ねると、那色はようやく安心したように口元をゆるめた。
「……それなら、よかったです」
ちょうどそのとき、白いクロスをかけたスタッフが静かに近づき、二人の前へ皿を置いていった。