蜜味センチメンタル
「及川白雪さんの復帰に合わせての再起用ってことで話題になってて。やっぱり彼女にお願いして正解だったよ」
「そうみたいですね。うちの広報も、今回の宣伝にはだいぶ気合いれてたようですし」
「うん。去年のアイドル起用もフレッシュで好評だったから、実はちょっと心配してたんだけど……安心したよ」
「及川さんはデビュー当時からうちの商品の顔をしてくれているご縁もありますし。それに何より――うちのエロ専務が彼女の大ファンなんですよ」
「そんな理由?ていうかエロ専務って……」
思わず苦笑いを返すと、那色は悪戯っぽく目を細めた。
「事実ですから。だから彼女の結婚報道の後なんて、しばらく魂ぬけてましたよ」
「それは……ちょっと気の毒かも」
同情をしつつくすりと笑うと、胸の奥にまとわりついていた強ばりがふっと溶けていく。
最初は、この格式高い店に自分だけが場違いに座っているようで思わず肩に力が入ってしまった。その上さらに那色の意味深な言葉が頭の片隅に残り、鼓動を落ち着けられずにいた。
けれど今は、気づけば自然に言葉を交わせている。
「あとね、このあいだ蓮実さんから春の新商品発表会について打診があったんだけど」
何気なく口にした瞬間、羅華ははっとして背筋を伸ばした。
「ご、ごめん。こんなところで仕事の話して……」