蜜味センチメンタル
「実は近々、2号店を開くことも考えててな。まあ取引くらいならいいだろうって思いはじめたところだ」
穏やかな声に、長く張りつめていた家族の確執が、ほんの少しずつだがほどけていく気配が滲んでいた。
「……っつーわけで、今後は商売相手としてよろしくな、次期社長サマ」
大和が皮肉めいた笑みを浮かべ、軽くグラスを掲げる。
「……うっざ」
那色は即座に顔をしかめ、吐き捨てるように返した。
そのやり取りに、羅華は思わず吹き出してしまう。
重かった空気がふっと緩み、笑い声とジャズの調べが混ざり合って、貸切の店内にやわらかな温もりが広がっていった。
しばらく滞在したあと、店を出ると、夜風がそっと頬を撫でた。
街路樹に飾られたイルミネーションが宝石のように瞬き、吐く息までもきらめきを帯びる。
並んで歩く足音が石畳に重なり、しばらくのあいだ言葉がなかった。けれど不思議と気まずさはなく、互いの手の甲が触れるたびに胸の奥が温かくなる。
「……綺麗だね」
ぽつりと私が呟くと、那色は横顔に微笑みを浮かべる。