蜜味センチメンタル


羅華の小さな抵抗に、那色はふっと笑う。

「もう遅いって」

頬を撫でていた手が、そっと顎へと滑る。軽く持ち上げられた顔に、そのまま那色の顔が近づいてきた。

抗う間もなく、唇が触れ合う。

ほんの数秒の重なりだった。それでも抵抗しなかった自分に、驚いた。

「…怒らないんですか?」

「……怒ってるよ…」

弱々しく返しながら羅華はふらりと膝を折り、力なくその場にしゃがみ込んだ。

「…も、やだ…私ばっかり振り回されて」

「僕だって緊張してますよ」

「嘘つき。余裕そうだよ」

「…そう見えます?」

羅華の目線に合わせて那色がしゃがむ。そして手を取り、自分の胸へとそっと当てさせる。

その向こうから、ドクドクと速い鼓動が胸を打ち付ける感覚が伝わってきた。

「分かりますか?羅華さんとキスして、こうなったんです」

「……」

「本当なら今すぐにでも押し倒したいのを我慢してまで、あなたに振り向いて欲しい男の葛藤…察してくださいよ」

言葉とは裏腹に、那色は笑顔だ。そんな顔すらも、ひどく癪に障った。

「…ムキになってるだけでしょ。初めてきみを拒否した女だから」

「そんな駆け引き楽しむほど女に困ってませんて」

「…最低」

「羅華さんだけですよ」

胸に当てた手を離し、那色は指を絡ませる。

「時間をかけてでも心も体も欲しいって思った女性は、羅華さんだけ」

「……」

「大切にしたい。けど、困らせたい。泣くのも笑うのも僕のためだけにして欲しい。…こんな感情、摩訶不思議すぎて僕の方が戸惑ってます」

困ったような、それでもどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、那色は続ける。

「隣で寝るだけ。お願いします。手は出さないって約束しますから」

——キスは手を出したうちに入らないんだ…

そんな言葉が喉元まで出かけて、ぐっと飲み込む。絡められた指の先から目線を引き上げ、まっすぐに那色を見た。


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