蜜味センチメンタル
勢いのままに握ったクッションを投げつける。那色は余裕の動きでそれをキャッチすると、今度は声を上げて笑った。
「しっかり目が覚めたみたいですね。お腹空きません?近くにお店あるなら食べに行きましょうよ」
「はっ?」
「それとも何か買ってきて家で食べます?女性は何かと準備がありますもんね」
「ち、ちょっと待って」
調子よく予定を決めようとする那色に、羅華は慌ててストップをかけた。
「なんでナチュラルに居座る気満々なの?帰りなよ」
「だってバイト先ここからのが近いんですもん」
「バイトって…まさか夜までいるつもり!?」
「はい」
さも当然のように頷く返す那色に、羅華は頭を抱える。
確かに今日は日曜日。学校も仕事もない。けれど朝には帰るものとばかり思っていたから、ここまで居座るとは思ってもみなかった。
どうしたものかと考えあぐねていると、不意に影が差した。
そっと伸びてきた那色の手が、眉間に触れる。
「皺、ちょっと痕になってる」
その手つきは柔らかく、声も静かだった。
「"おかあさん"」
「!」
「何度もそう呼んでました。…大丈夫ですか?」
「……」
やっぱり聞かれてた。そう思った瞬間、羅華の眉がきゅっと下がる。
恥ずかしさとどうしようもない感情に押され、毛布に顔をうずめた。
——どうして、こんな日に限ってあんな夢なんか…
よりにもよって、那色がいる、この日に。