蜜味センチメンタル
「羅華さん?」
声をかけられて、無言のまま見つめていた事に気づく。けれど今の違和感は何と表現していいのか分からず、問い返す言葉も見つからない。
だから、一度その思考は手放すことにした。
「あー…別にいいよ、普通で。次の日仕事だし、遠出じゃなければ…」
そう答えた瞬間、はたと気づく。いやいや、なんで自然にデートする前提で答えてるの?
自覚と同時に、顔にカッと熱がこみ上げた。
「や、待った。今のなし!聞かなかったことにして!しないし行かないから!」
「えー、デートくらいいいじゃないですか。減るもんじゃないし」
「確実に気力は減りそうだけど…」
「分かりました。じゃあ今回は僕の希望に付き合ってください」
那色は、羅華が返す前にスマホを操作して、画面を差し出してきた。
そこに映っていたのは「Afternoon Tea」の英字と、煌びやかで美味しそうなスイーツたちだった。
「実は僕、甘いものに目がなくて。ここのホテルのアフタヌーンティーが前から気にはなってたんですけど2人からしか予約できないんですよね」
「…これを、私と?」
「今やってるオータムフェアが来週までなんですよ。だから、一緒に行ってくれませんか?」
画面越しでも伝わるスイーツの魅力。キラキラと輝く彩りと甘やかな誘惑に、空腹だったこともあって、思わず喉が鳴りそうになる。
「羅華さんは甘いもの好きですか?」
「…好き…」
「なら尚更。是非」
羅華の心は、揺れるどころか、すでにかなり傾いていた。
もともと、どうしてもデートが嫌というわけではない。そんなときにこんな魅力的な誘いを見せられたら、揺らぐに決まってる。
ただ、食べ物であっさり釣られる食い意地の張った女に思われるのもなんとなく癪だった。
だから少しだけ間を置いてから「……行く」と、小さく答えた。