蜜味センチメンタル
そんな感じってなんだ。実家か一人暮らしの二択じゃないのか。
「羅華さんはいつから一人暮らしですか?」
それを問い返す前に今度は那色が質問を投げてきた。羅華の疑問は、自然と宙に消えた。
「…私は大学から。母と一緒に住んでた家からだと遠くて通えなかったから、仕方なく」
「仕方なく、とは?」
「私は高校を出たら働こうと思ってたんだけど、成績がそれなりに良かったから母に泣きつかれちゃって。自分のせいで私の人生狂わせたくないって……」
「……そうですか。お母さんが」
少し声を落とした那色に、羅華は苦笑で返す。今朝自分が取り乱した姿を思い出してるのだろうと、なんとなく察した。
「母は優しいけど繊細な人でね。父を繋ぎ止めておけなかったって、それで私に色んなことを我慢させてるっていつも自分を責めて泣いてた」
「……」
「だから母の涙には弱いんだよね、私。ちょっとトラウマレベルだよ」
努めて明るく返す。この話はあまり面白いものじゃないし、深く掘られるのも気が進まなかった。
「那色くんはさ、」
言葉を切り替えるように話題を変える。
「毎週来るって言ってるけど、ご家族は何も言わないの?」
許可したわけじゃないけど、という言葉を添えると、那色はあっさりと頷いた。
「大学生で、しかも就職前にした男ですよ。そううるさくも言われませんって」
「そういうもの?」
男の子の家庭事情はよく分からない。羅華自身ひとりっ子で、しかも父が出ていったあとは祖父母の家に身を寄せていた。母にも兄弟はいなかったから、従兄弟もいない。
年頃の男の子と暮らした経験なんて、一度もない。
「けどお友達は?もうすぐ卒業なんだし、私なんかにつきまとうよりそっちと遊びなよ」
なるべく軽く言ったつもりだったが、那色はふいにそっけない声で返す。
「いいです、別に」
そのトーンに、羅華は思わず口に手を当てた。地雷を踏んでしまったかもしれない。