蜜味センチメンタル
那色は再び食事に目を落とし、付け合わせのトマトを指先で転がしながらひょいとつまんだ。
「そういう羅華さんこそ、友達いないじゃないですか」
「えっ…!なんで知ってるの!?」
思わず吹き出しかけて口を押さえる。振り返ると、那色は「やっぱりね」と薄く笑った。
「来客用のスリッパが無かったから。僕が家に行き始めてから用意したってことは、そもそもが必要なかったからでしょう?」
「……」
図星を突かれ、言葉を詰まらせる。
すると那色は、先ほどより少しだけ真面目な顔になった。
「それって、前に言ってた昔のことが関係してるんですか」
“昔のこと”という言葉で、かつての友人との軋轢やいじめを指しているのだと、すぐに分かった。
羅華は一度横を向いていた体を戻し、俯くようにして小さく答える。
「違うよ。ただ私…ちょっと浮いてたから」
「浮いてた?」
「…母子家庭で大学通うのって、結構きつくって。奨学金だけじゃ足りなかったから。…その、ね。ちょっと特殊なバイトを少々…」
「は?」
急に声を低くした那色が、ぐっと詰め寄る。
「特殊って…まさか、夜の仕事…?」
「えと…まあ、あはは」
乾いた笑いで誤魔化し頬を掻く。だが那色は冗談に取り合う様子もなく、むしろ一段と真顔になって問い詰めてきた。
「…もしかして、羅華さんが処女じゃないのってその仕事の時に…」
「なっ!?」
あまりの発言に思わず目を剥き、羅華は咄嗟に那色の口を手で覆った。
「ち、違うよ!なに勘違いしてるの!?ていうかこんなところでそんなこと言わないでよ!!」
誰が聞いてるかも分からないこんな場所で、よりにもよってそんなセンシティブな話をするなんて。デリカシーがないのはどっちだと睨み、非常に小さな声で続けた。
「キ、キャバクラだよ…勉強と両立させながら稼ぐには、その方が効率よかったの」
言いながら那色の顔からゆっくりと手を離す。
胸の奥がすうっと冷えるような感覚に襲われながら、羅華は自分が話してしまった事実を静かに飲み込んでいた。
これで、もう那色に隠していることはなくなった。こんなにも赤裸々にさらけ出してしまっていいのかという迷いが、今さらこみ上げてくる。
けれど那色は何も言わずに、急に腕をぐいっと掴んできた。