蜜味センチメンタル
多くは語らないところからあまり深堀しないほうがいいだろうと察した羅華は再びグラスに口をつけて黙る。その対応は正解だったようで、那色は使った道具を拭き上げながら微笑んだ。
「だけど、話に乗って正解でした。羅華さんみたいな素敵な女性に会えたので」
「あはは、お世辞が上手だねえ」
あまりに自然に放たれた誉め言葉に、食えない子だなと思った。だが羅華とて年下の男からのお世辞に本気になるほど初心でもない。
笑って聞き流していると、那色は眉を下げて困った顔をした。
「お世辞でも冗談でもないんですけどね」
「え?ああ、ごめんね。揶揄ったわけじゃないの」
テーブルに肘を載せ、もたれかかるようにしながら羅華は言う。
「けど私は君より4つは年上になるし、大学生からしたらそれだけ上だとおばさんでしょう?」
言った後に後悔する。全国の20代女性を敵に回す発言だっただろうかと失言に申し訳なさを抱いていると、那色もまた緩やかに首を振った。
「4歳差なんて誤差ですよ」
「あ、そう…」
那色自身がそう言うのも否定するのもおかしいし、あまり言い過ぎるといろんな方面に失礼なのでこれ以上は控えることにした。
年上の女性が好みなのかなあ、などと他人事のように考えていると、店の奥から香ばしい香りが漂ってきた。
「羅華ちゃん、お待たせ」
言葉と共に大和がペペロンチーノを持って現れ、羅華の前へ置いた。
「ありがとうございます、大和さん」
「那色の相手させてごめんね。変な事されなかった?」
「いえ、普通にいい子ですけど。なんです?変なことって」
「女には見境ないんだよ。特に年上にはね」
「へえ…」
いただきますと、フォークにパスタを巻き付けながら隣を見遣る。那色は特に肯定も否定もせず、静かに笑っていた。