蜜味センチメンタル
「お前がいつも付き合い悪いのって、そういう理由?」
「まあ…はい、そうですね」
お金をもらって酌の相手をするのに慣れてしまったせいか、逆にお金を払ってまで楽しくもない酒の席に身を置くことが、苦痛でしかなかった。
「それでも接待とか歓送迎会とか、最低限出るべき時は出てるからいいじゃないですか」
羅華が続けると、加藤は呆れたように息をついた。
「ホントに最低限じゃねえか。つか、それって全部会社が金出してくれるやつばっかじゃん。銭ゲバかよ」
「はいはい」と心の中でだけ受け流しながら、羅華は話題を切り替えるように資料を手に取り、机の間に置いた。
「この商品って、冬季限定のホワイトチョコレートですよね。毎年女優の及川白雪さんがされてたのに、方向性変えたんですか」
資料を見ながら問うと、加藤は肘をついたまま首を横に振った。
「いや違う。お前も知ってるだろ、この間のストーカー事件。公表はまだだけど彼女しばらくその件で休養するらしいから、今年はどうしても無理だって断られたんだ」
「ああ、なるほど…」
「今回はその件もあってクライアントも納得してくれたけどな。とはいえ、今後は事務所への確認はマメに入れとけ。世間じゃ商品名もじって“白雪チョコ”なんて呼ばれてるくらいだ。彼女の復帰次第ではスケジュールの確保、早めに動く必要があるぞ」
「分かりました。気をつけます」
そう返しながら、羅華は先日テレビで見たニュース映像を思い出す。
人気女優が絡んだ傷害事件ということもあり、連日大々的に報道されていた。広告代理店として少なからず影響があるだろうと、その時点で羅華も予感はしていた。
及川白雪本人の怪我の有無は明かされていないが、同行者が重傷を負ったとのことで世間の同情は彼女に集まっている。しばらく休業となっても人気が落ちることはまずないだろう。
むしろ、復帰が公になればその話題性も相まって出演枠は争奪戦になる。加藤の言う通り、復帰前に声をかけるくらいでなければ間に合わないかもしれない。
そう考えて、羅華は手元のポストイットに「白雪案件 優先確認」と書き込み、デスクトップモニターの端に目立つよう貼り付けた。