蜜味センチメンタル
そうしたところで、会議室のドアがノックされ、同僚が顔をのぞかせた。
「加藤さん、そろそろ出る時間なんですけど…行けますか」
「おー、悪い。今行くわ」
加藤は入り口に向かってそう返すと、わざとらしく「よっこらしょ」と腰を上げた。そのまま羅華の方へ向き直り、声をかける。
「原岸、来週までは通常通り出社してるから。何かあったら、都度声かけろよ」
「ありがとうございます」
タイピングの手を止め、軽く頭を下げる。加藤は片手をひらりと上げて会議室を出ていった。
その背中を見送り、羅華は再びPC画面へと目を戻す。
いくつか過去の資料を開きながら、思わず肩に手をやった。凝り固まった首筋が重く、目の奥にも鈍い痛みが走る。
それでも午後には、現在担当しているクライアント先で広告効果測定の報告が控えている。そのための資料は、まだ未完成のままだ。
焦りが頭をよぎり、同時に空腹も思い出す。だが昼食を取る余裕はなさそうだった。
——せめて、来年度に入る子が優秀であってくれたら……
ほとんど諦めにも似た願望を胸の奥で呟きながら、羅華は会議室の予約時間ぎりぎりまでモニターに映るグラフと文字列を睨みつけ続けた。