蜜味センチメンタル
「那色くんに何かされたわけでも、したわけでも無いのは本当です。…ただ、」
「ただ?」
促されるように、大和の視線が真っすぐに向けられる。その真摯な気配に押されるようにして、羅華は静かに続きを口にした。
「……昔のことを話したら、涙が止まらなくなって。心配してくれたのか、家の前まで送ってくれて……それで、その……私が、ちょっと中途半端なことをしてしまって。そしたら、あれよあれよという間に丸め込まれて、居座られて……気づいたら、週末にデートに行くことになってました」
「……」
あの時、家に上げなければ。そう思っても、すでに遅い。
羅華は気まずさを隠すように、グラスのファジーネーブルを一口、ごくりと喉に流し込んだ。
視線を横にずらすと、大和はカウンターの端に手を置いたまま、しばらく黙っていた。やがて、少し低めの声で問いが落ちる。
「…それは合意?それとも何か弱みを握られた?」
「那色くんに対する信頼無さすぎじゃないですか」
思わず苦笑しながら「一応、合意です」と小さく付け加えた。
「デートっていっても一緒にデザート食べに行くだけなので、大した話でもないですし」
「…そう…」
大和は短く応じたが、どこか言い淀むような口調だった。表情もどこか複雑で、戸惑いと微かな不安が混ざったような顔。
それを察した羅華は、少しだけ間を置いてから言葉を続けた。
「…那色くんって、甘えるの上手ですよね」
手元のグラスを持ち上げ、氷の音を聞きながらぽつりと呟く。
「大和さんが那色くんを甘やかしちゃう気持ち、なんとなく分かっちゃいました。今回だって、スイーツが好きだから一緒に行って欲しいって…あの顔でそんな可愛いお願いされたら、なんだか断るの、すごく罪悪感があって」
「それは…」
言葉を探すように、大和が小さく眉をひそめた。
「彼、昔からあんな感じなんですか?」
遠回しながらも核心に触れるようなその問いに、大和の表情がかすかに動く。
「聞いたんです。2人がご兄弟ってこと」
周囲を気にして、声を落として告げる。それでも大和の耳にはしっかりと届いたようだった。
一瞬、大和の目が見開かれる。
「…話したの?あいつが?」
「話の流れで私から問い詰めるような形になって、半ば無理やり聞き出してしまって。でも私は嘘が下手だから知らないフリしなくていいって、那色くんが」
「……」
大和の手が止まる。グラスを磨いていた布の動きもぴたりと静止し、目線だけが羅華を見つめていた。