蜜味センチメンタル
「大和さん。那色くんから昔、何されたんですか?」
あの時、「実際に大和も──」の続きを聞くことはできなかった。その残された違和感がずっと心の奥に引っかかっていた。
今、那色に振り回される立場になって、だからこそ大和の話が知りたかった。
質問を受けた大和は、困ったような笑みを浮かべた。それは作り笑いにも近くて、気まずさとどこか懐かしさの入り混じったような表情だった。
「俺の話をする前にまず言っておくとね、那色って基本は自分勝手で女にだらしなくて、取り柄なんて顔くらいしかないどうしようもないクソガキなんだけど」
「…わあ…辛辣…」
あの温厚を体現したような大和から「クソガキ」なんて単語が飛び出すとは思わず、羅華は軽く背筋がぞくりとした。
「それでも本当に稀に、誰かにやたらと執着することがあるんだ」
「……」
「それが昔の俺」
そこからの語りは、まるで静かに降る雨音のように淡々としていた。
「当時の那色は、同年代の子より小柄で、顔なんか本当に整っててさ。そのへんの女の子が霞むくらい、可愛かった」
「…。でしょうね」
今の那色を思い浮かべるだけでも、子どもの頃の姿は目に見えるようだった。無垢な笑顔を浮かべ、さぞ天使のような幼少期だったのだろう。
「俺にもよく懐いてたし、今よりずっと素直だったから、かなり甘やかしてたんだと思う。多分そのせいで、俺のこと自分の所有物みたいに思ってたんだろうな」
「……」
「俺に彼女ができる度に、そりゃあもう弟の立場利用してここぞとばかりに邪魔してきてたね」
意外だった。今の那色からはあまり想像できない。けれど恋人との時間を阻まれたとあらば、大和にとっては相当迷惑な話だっただろう。
「…大変でしたね」
思わず漏れた同情に、大和は苦笑する。