蜜味センチメンタル
「他人事みたいに言ってるけど、今それされてるのが羅華ちゃんだって自覚ある?」
「え、」
グラスを口に運ぼうとしていた手が止まる。思わず目を見開いた。
「こう言うと最低に聞こえるけど、あの容姿だから本当に女には困ってないんだよ。実際、那色目当てに来てくれるお客さんも結構いるんだよね」
「……」
「まあそれを見越してバイトに引き入れた俺も大概性格悪いんだけどさ、」
軽口を叩くように見えて、その言葉にはどこか棘がある。
「あいつの事だから絶対何人かには手出すだろうなとは思ってた。店に影響出ない程度なら好きにさせるつもりだったし、その辺はちゃんと弁えてるだろうって、口挟むつもりはなかったけど…」
そう言って、大和はふと真顔になる。そして、視線をこちらへ向けてきた。
「まさか《《こう》》なるとは、俺も予想外だったよ」
空いたグラスに手を伸ばし「何か飲む?」といつものように微笑むその表情に、羅華は応じずじとりと視線を返した。
「こうって、なんですか」
「言ったでしょ。時たまに誰かに執着する時があるって。那色が俺との関係を他人に話すなんて正直ビックリしたよ」
「……」
「俺の知る限り、那色が誰かに固執するのは俺以外で2人目だよ」
その言葉に続けて、大和は「適当に作るね」と言って手元を動かし始める。
その背を見つめながら、羅華は何も言えなかった。
──那色くんが、私に……?
そんなわけない。けれど完全には否定できない自分がいる。
どれだけ拒否しても、言葉巧みに距離を詰めてくる。先週末も、そして今度の日曜も。デートだって、気付いたら決まっていた
ならばあの言葉は?——惚れた腫れたは当座のうち。…そう言ったのは那色本人だ。
彼が何を考えているのか、全くわからない。
「…大和さんの思い過ごしじゃないですか?」
ようやく絞り出した言葉に、大和はマドラーを軽く回しながら視線を落としたまま応じる。
「どうしてそう思うの?」
「大和さんが言ったんじゃないですか。女には見境ないって」
「言ったね」
「ほら。だからどうせ、那色くんの気まぐれですよ」
ふと、大和の手が止まった。顔を上げると、どこか意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「……じゃあその気まぐれとやらだとして、送り狼目的で早退させて欲しいなんて言ってる奴に、俺が了承を返すと思う?」