蜜味センチメンタル
意地の悪い笑みの奥に、ふと那色の面影が見えた。
似ていないと思っていたけれど、表情の作り方や纏う空気、その一瞬の温度感は確かに、二人はどこか似ていた。
「羅華ちゃんは、本当のところ那色のことどう思ってるの?」
大和の声に、揶揄うような色はない。それは羅華が愚痴を零すたびに見せていた、あの穏やかな笑顔で向けられた問いだった。
「…分かりません」
素直な気持ちだった。分からない。それが、今の羅華のすべてだた。
この店に来れば無意識に姿を探してしまうほど気になる存在。けれど付き合いたいとか、そういう関係には踏み込めない。
大好きだった人を忘れてしまうのが怖い。それと同じくらい、那色に溺れてしまいそうで怖いのだ。
「…そっか、」
呟くような大和の声と共に、新しいグラスが目の前に差し出された。
「じゃあ一応、嫌ではないってことだ」
「……それは…」
見透かすようなその目に、言葉が続かない。迷っているうちに、大和は構わず言葉を継いだ。
「そういうことなら、俺の出番は無さそうだね」
「ええ…」
「いつもの那色の"遊び"なら、ちゃんと苦言を呈す予定だったよ。羅華ちゃんは大事なお客さんだから」
「……」
「俺、やっぱり甘いのかなあ。かわいい弟の恋路は応援してやりたくなるんだよね」
「恋路って…」
本当に、そんな可愛らしいものだろうか。
けれど、じゃあ止めてほしかったのかと聞かれればそれも違う気がする。
落ち着かない気持ちを抱えたまま無理にグラスを傾けた酒は、ひどく味気なく感じた。
「…大和さんって、意外といい性格してたんですね」
迷った末に、少しだけ嫌味を込めて言えば、大和はすぐに笑った。
「俺のこと聖人君子か何かだと思ってた?」
「…少なくともこんなに強かな人だとは気付けませんでした」