蜜味センチメンタル
店のために那色の容姿を利用し、顧客を得るためならプライベートの問題には目をつぶり。今だって那色の性格を熟知していながら、羅華にあてがおうとする。信じて疑わなかった大和の善人の仮面が剥がれていく。
少しばかり不貞腐れたような羅華の顔とは対照的に、大和は、終始穏やかな笑みを崩さなかった
「多かれ少なかれ、経営者なんてのは非情なものだよ」
「……」
羅華とて、それを知らないほど世間知らずではない。
夜の店で働いていたあの頃に嫌というほど見てきた。社会に出てからもそれは同じ。駆け引きばかりが横行し、腹の探り合いが日常になる。一瞬でも隙を見せれば、簡単に立場を奪われる。
それ自体は否定しないし、利益を守るためには必要なことだと割り切っている。
けれど気まぐれで巻き込まれるのは、やっぱり迷惑だ。
「…一応聞きますけど、那色くんって真面目な恋愛したことは?」
「さあねえ…来るもの拒まず去るもの追わずを地でいくやつだから」
「え、けどさっき私のこと2人目って…」
大和の言葉をなぞるように呟いて、ふと胸の奥が重くなった。
那色が“執着した”相手が、自分の他にもいた。…その人こそが、唯一本気になった相手じゃないのか?
ふと、そんな思いがよぎる。
「気になる?」
「…そりゃあ、私だって遊ばれるのは嫌ですから」
もしもその人を今も忘れられずにいるのだとしたら。もしも、心の中でずっとその人を抱えて生きているのだとしたら。
なおさら、自分は那色の隣にはいられない。
「こういう言い方はどうかと思うけど」
大和がぽつりと呟く。目線を落とし、その表情に陰が差す。
「…もうその人はいないから」
「…え…」
見つめた先の表情は、微かな憂いが帯びていた。