蜜味センチメンタル
「なんで、わざわざ僕のいない日に店に来るんですか」
「……」
「僕がいないの、知ってたんですよね?なのに週末には来てくれないし」
歩調を変えないまま、那色は前を向いたまま言葉を続ける。隣を歩く羅華は、思わずぽかんと那色を見上げた。
「え……そんなこと?」
「はあ?」
その瞬間、初めてはっきりと那色の表情が歪んだ。
「そんなことで悪かったですね。どうせ、僕のこと子どもだって思ってるんでしょう?」
「や、そんなこと言ってな……」
「別に拗ねてなんかいませんよ。僕に会いに来てってお願いしたのに無視されたことも、いつも会いに行くのは僕のほうからばっかりなことも、昨日もようやく会えたと思ったら言いたいことだけ言って、さっさと寝ちゃったことも……ぜ〜んぜん、気にしてませんから」
「……」
羅華の脳裏に、昨夜の記憶がぼんやりと蘇る。
那色が来たのは深夜。連日の残業と昼間の外出で、すでに体力は限界に近かった。眠気に抗えず半ば意識を飛ばしながら敷いた布団を指さし、「そこで寝て」とだけ告げて、羅華はそのまま布団に倒れ込んだ。
そのあとの記憶はない。
言われてみれば、確かに素っ気なかったかもしれない。でもまさか、那色がそんなに気にしていたとは思ってもみなかった。
子どもっぽいと言えば、そうかもしれない。
けれどそれよりも、羅華の中に別の感情が込み上げてきた。
「……ふふっ」
堪えきれずに、口元に手を当てて笑ってしまう。
だって、怒ってる理由が可愛すぎる。
「拗ねてない」「気にしてない」と口にしながら、言動のすべてがその逆を物語っている。可愛げのかたまりだ。
肩を震わせて笑いをこらえていると、頭上から不機嫌な声が落ちてきた。
「……なに、笑うとか。普通に感じ悪いんですけど」