蜜味センチメンタル
「言いたいことがあるなら言えば」
挑発めいた那色の言葉に、羅華は今度こそ正々堂々と笑った。
「あはは!ごめんごめん。確かに、ちょっと感じ悪かったね」
言葉では謝りながらも、笑いは止まらない。
それがまた癪に障ったのか、那色はこれでもかというほどに睨みつけてきた。
「……こういうところが子どもっぽいって、そう言いたいんでしょう。どうせ僕は、大和みたいに包容力があって優しい、大人の男にはなれませんよ」
その棘のある言い方には、どこか寂しさが滲んでいた。
羅華は笑いをぴたりと止める。そして真面目な顔で首を傾げた。
「それ、さっきも言ってたけど……どうしてそんなに大和さんを意識してるの?」
実際、大和とは那色以上に何もない。頼れるお兄さんという印象こそあれど、男女として意識したことなんて一度もない。
それこそ、水曜日に店で話していた内容も那色のことばかりだったのに。
距離感で言えば、那色との方がよほど近い。
「……だって、羅華さんは年上が好きなんでしょう?」
「……私、そんなこと言った?」
先ほども否定した気がするが、改めて問い返す。
那色は少し間を置いて、もう一度、ぽつりとつぶやいた。
「……“先輩は、かっこよくて、優しい男だった”って」
「……」
本日二度目の、ぽかん顔。
今度は足まで止まってしまった。それに気づいた那色が、ようやく視線を向ける。
途端に、その表情が歪んだ。
「……その間抜け顔、普通にむかつくんですけど」
「……そういうとこじゃないかな…」
こういう時でも口の悪さは変わらない。自然と眉が下がってしまう。
言動が矛盾だらけで、理不尽で、子どもっぽくて。
でも、それが全部羅華の何気ない言葉や行動が原因だったとわかってしまった今、呆れる気持ちより先に浮かんでくるのは……
愛しさ、だった。
そこに気づいてしまった瞬間、羅華の中で何かが決定的に変わってしまった。
もう、これは——末期だ。