蜜味センチメンタル
隠されると、余計に信ぴょう性が増してしまう。今でもなお、その人を忘れられないのではないか。そんな疑念が募っていく。
——どの口が言ってるんだか。
誰よりもそれを言えた立場じゃないくせに。
そんな矛盾を抱えたまま、ひとり胸の中で葛藤していると、タイミングよく先ほど那色が頼んだ水が運ばれてきた。
ウェイターがグラスに静かに水を注ぎ、それを見守るように羅華は視線を落とす。そして彼が頭を下げて立ち去ると同時に、ようやく那色が口を開いた。
「大切な人って……なんでそんなことを」
「大和さんから聞いたんだよ。自分以外に、那色くんがやたら執心してた人がいたって」
先日、耳にしたままの言葉を淡々と伝える。
案の定、那色はあからさまに顔をしかめた。
「はあ……大和のやつ、よくもまあ勝手に人の話ペラペラと……」
敬語が抜けた那色の口調は荒れていて、うんざりしたように背もたれへ体を預けると、椅子がわずかに軋む音を立てた。
「大和からどう聞いたかは知らないですけど、そういうのじゃないですよ」
「……じゃあ、片想いだったってこと?」
そっと視線を上げると、自然と上目遣いになる。そこで見えた那色の顔は笑うでもなく、怒るでもなく、ただ真っ直ぐに澄んだ目をしていた。
その表情に、揺れた。
いつになく真剣な顔。その目に、別の誰かを思い浮かべているのだとしたら。…そう考えるだけで、喉の奥がきゅっと痛んだ。
「本当にそんなんじゃなくて……ていうかこれ、もしかしてちゃんと話さないと羅華さん、ずっと怒ったままな感じ?」
「っ、そんな言い方……!」
「違いますよ」
言葉にかぶせるように返された声に、思わず言葉を飲み込む。
「昔の彼女とか、片想いの相手とか。ついでに言うと初恋の人とか。……そういうのじゃないです。全く」