蜜味センチメンタル

返す言葉が、見つからなかった。

ちょうどその時頼んでいたアフタヌーンティーセットが届き、テーブルに一層の静けさが落ちた。

「お待たせしました」

ウェイターの一言とともに、カチャリと音を立てて三段のプレートがテーブルに置かれる。

ふたりとも無言のまま、それを見つめた。

目の前に並んだスイーツたちは、まるで宝石のように輝いていて、間違いなく美味しそうだった。
朝は抜いてきたし、確かにお腹も空いているはず。

それなのに——どうしてだろう。
今は、手をつける気になれなかった。

「美味しそうですねえ」

「…そうだね」

「羅華さん、写真とか撮らないんですか?そういうのしないタイプ?」

「いや…」

「じゃあ、僕勝手に撮っちゃお」

そう言って那色はスマホを取り出し、パシャリ、パシャリとシャッターを切りはじめる。

その様子をぼんやり眺めていると、不意に名前を呼ばれた。

「羅華さん」

「え?」

返事と同時に、軽やかなシャッター音が響く。

「……え、いま私のこと撮った?」

「撮りました」

「なんで?」

「可愛いから」

さらりと答えながら、那色は再びカメラを構えた。

「今日の格好、特別可愛いですから。記念に残しておきたくて。今度はちゃんと笑ってくださいよ」

「ちょ、やだ、やめてよ!」

慌てて手を前にかざす。
那色はその仕草を見て肩をすくめ、

「残念」

そう言って、ようやくスマホを下ろした。

「さっき撮ったやつ、待ち受けにしてもいいですか?」

「……それは普通にイヤ」

「ケチ」

拗ねたように言いながら、那色は下段のサンドイッチをひょいと手に取った。


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